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大阪高等裁判所 平成5年(ラ)520号 決定

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

一  執行抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告状及び抗告理由書(各写し)記載のとおり

二  当裁判所の判断

記録によれば、抗告人は、本件不動産につき、その所有者である丁原竹夫こと戊田竹夫から、平成二年七月三〇日、極度額を金三九六〇万円とする根抵当権設定を受けて同日受付でその旨の登記を経由し、さらに平成三年三月六日、極度額を金三億五六四〇万円とする根抵当権設定を受けて同日受付でその旨の登記を経由していたところ、債務者において債務を履行しなかつたため、抗告人は、平成三年一二月六日競売開始決定を得て同月七日受付で差押の登記を経由した後、平成五年八月一八日受付で、所有者である戊田竹夫から本件不動産を賃借してこれを甲田花子他九名に転貸している乙野春夫を債務者とし、右転借人らを第三債務者として、根抵当権の物上代位に基づく転貸料債権の差押命令を求める申立てをしたところ、原審は、差押債権が本件不動産の所有者又はこれに代る者としての第三取得者に帰属するものではない、との理由で右申立てを却下したことが明らかである。

しかし、民法三七二条により、先取特権の物上代位に関する民法三〇四条の規定を抵当権(根抵当権を含む。以下同じ)に準用するについては、少なくとも競売開始決定の効力発生時点以降においては、抵当権の物上代位が抵当不動産の賃料債権にまで及ぶものと解すべきであり、また、同条中「債務者」とあるのは、抵当権の物上代位の場合には「抵当権の目的たる不動産上の権利者」と読み替えるべきであり(大判明治四〇年三月一二日民録一三輯二六五頁)、これには所有者及び抵当不動産の第三取得者のほか、抵当不動産を抵当権設定後に借り受けた賃借人も含まれるものと解すべきであり(東京高裁決定昭和六三年四月二二日高民集四一巻一号三九頁)、既に大阪高裁の先例も同旨の判示をしている(同高裁第五民事部平成四年(ラ)第四一四号同年九月二九日決定(公刊物未登載)、同第七民事部平成五年(ラ)第一八二号同年四月二一日決定(前回)、なお最判平成元年一〇月二七日民集四三巻九号一〇七〇頁参照)。

そうすると、少なくとも本件不動産に対する各根抵当権設定時期と原賃貸借成立時期との先後関係等を検討すべきものであるのに、これをしないままに上記の理由で本件差押命令の申立てを却下した原決定は、その審理を尽くさないものとして取消しを免れない。

三  結論

よつて、原決定を取り消したうえ、更に審理をさせるため、本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 竹原俊一 裁判官 渡辺 壮)

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